予防歯科
歯を削るということについて
3歳児の健太君はむし歯がいっぱいです。
なかなか磨いてくれません。お母さんが磨いてあげようとしても、いやがります。
大きなむし歯、小さなむし歯、たくさんできてしまいました。
歯医者の先生は大きなむし歯から治療をはじめました。
3歳の健太君はがんばりましたが、そこは3歳児、途中から泣き出してしまいました。
お母さんも心配顔です。
「健太君早くむし歯を治そうね」 優しい歯科衛生士のお姉さんに言われて、健太君はまたがんばりました。歯医者さんに10回通ってやっとむし歯の治療は終わりました。
「もうむし歯にならないように、今度はフッ素を塗ろうね!」衛生士のお姉さんと約束しましたが、健太君はうっかり忘れてしまいました。
それから3年、健太君は小学生になりました。歯磨きは相変わらずいい加減です。
またまた、むし歯がたくさんできて痛みもでてきました。
以前治療した所も詰め物の横からむし歯になってしまい、穴が開いています。
歯医者の先生は麻酔の注射をして神経を取りました。
再び10回通って治療は終わりました。
衛生士のお姉さんが歯の磨き方を丁寧に教えてくれて、フッ素を塗る約束をしました。
でも健太君は約束の日には来ませんでした。
すっかり忘れてしまっていたのです。
それから3年、・・・・・。それから3年、・・・・・。 実話です。
健太君は今は大学生です。
予防の大切さを理解した健太君は、定期的に歯医者さんに通っています。
むし歯の治療ではなく、むし歯と歯肉炎の予防のために。
健太君のような患者様は実はたくさんいます。
同じ歯を繰り返し治療するのは、歯科医師にとっても実は気の重いことなのです。
自分が悪いの?患者様が悪いの?院長藤田が歯科医師になった35年前にはあまり予防歯科という考え方は一般的ではありませんでした。
ただ同じ治療の繰り返しである日気づいたのです。
「そうだ、これからはむし歯の治療を主としたクリニックではなく、健康な人を対象にむし歯を作らないクリニックに変えてゆこう。」
歯を削るのは最終手段だと思っています。
歯にとって一番いいのは、“削らなくて済む状態”を保つことなんです。
付随して、知覚過敏の症状が出たり、神経の処置をしたりということもあるのです。
歯を抜くと言うことについて
山本さんは今年60歳、 部分入れ歯をしています。
趣味の山登りや、自営の電気工事店の仕事が忙しくて、歯を磨く時間がとれません。
入れ歯のバネが掛かっている歯が揺れてきました。
レントゲン写真を撮影した後、 歯医者の先生に「残念ですが、歯周病が進んで歯を支える骨が無くなっています。抜きましょう。」 と言われました。
山本さんは少し悲しい気持ちになりましたが、痛みと腫れがひどいので、あきらめて抜いてもらうことにしました。
その後歯科医院に8回通って、入れ歯も新しくなりました。
「これからは歯周病の予防の為に定期的に歯のクリーニングに通って下さい。」
歯医者の先生と約束はしましたが、予約が2ヶ月先だったので、山本さんはすっかり忘れてしまいました。
それから3年、山本さんはお店を息子さんに譲って山登りに熱中しています。
ある日残っている歯の1本がぐらついてきました。
歯医者の先生はレントゲン写真を見た後、「残念ですが抜きましょう。」 と宣言しました。
がっかりした山本さんは「クリーニングにきちんと通わなかった自分が悪いのかな?」と思いました。
再び8回通って入れ歯も新しくなりました。
歯科衛生士のお姉さんが歯の磨き方を丁寧に教えてくれて、定期的に歯のクリーニングに通う約束をしました。
それでも山本さんはまた約束の日をすっかり忘れてしまいました。
それから3年・・・・・。それから3年・・・・・。
以上は実話です。
山本さんは今は80歳です。
趣味の山登りは続けています。
今では、山本さんは歯の予防の大切さに気づき、定期的に歯科医院に通っています。
歯を抜いて入れ歯を作る為ではなく歯周病の予防と歯のクリーニングのために。
山本さんのような患者様は実はたくさんいます。
同じ患者様の歯を、数年おきに何度も抜いては入れ歯を作り直す…そんな状況は、私たち歯科医師にとっても正直つらいものがあります。
自分が悪いの? 患者様が悪いの? 院長藤田が歯科医師になった35年前にはあまり予防歯科という考え方は一般的ではありませんでした。
ただ同じ治療の繰り返しで、ある日気づいたのです。
「そうだ、これからは歯周病で歯を抜く歯科医院ではなく、歯周病で歯を抜くことを予防する歯科医に変えてゆこう。」
歯を抜くことは、やむを得ない場合もありますが、咬み合わせのバランスを考えると、できれば避けたい処置です。
その結果として、入れ歯を作ることになったり、ほかの歯に余計な負担がかかってしまうこともあるんです。
むし歯の予防について
(ニューブランの輪)
むし歯の4つの要因
むし歯は、ごく初期 (CO=シーオー:要観察歯)の場合治ることもありますが、一般的には他の病気とは異なり、人間の身体がもっている自然に治す力で治ることはありません。
それなら、まずむし歯にならないように予防することが何より大切です。
口腔の病気は全身の健康状態と密接に関連しています。
健康な毎日を過ごすためには、歯と口の中の状態を良好に保つことが大切な条件になります。
むし歯は単一の要因では発症しません。
「むし歯菌の量」・「糖分摂取の量」・「歯質」この3つの要因に「時間経過」が加わることによりむし歯が進行していきます。
むし歯予防には、この4つの要因をいかになくせるかが重要になってきます。
むし歯のメカニズムを意識的にコントロールすることを心掛けましょう。
むし歯予防について、ニューブラン4つの輪にしたがって説明していきます。
1.むし歯菌
寝る前は必ず歯磨き
食前・食後はできるだけ!
むし歯菌を減らすには、プラークコントロールと呼ばれるブラッシングが最も一般的な方法とされています。
毎日の正しいブラッシングに加えて、フロスや歯間ブラシを使うことで、むし歯菌がたまりやすいプラークをしっかり落とせます。
食べカスがそのまま残った状態で数時間たつと、歯の表面ではむし歯菌がどんどん増えてしまいます。
とくに寝ている間は、だ液の量が少なくなるため、歯の表面(エナメル質)から溶け出したカルシウムやリンが元に戻りにくく、むし歯になりやすい状態が長く続いてしまいます。
歯みがきにおすすめのタイミングは、寝る前と食事の前後です。
これらを毎日の習慣にすることが、お口の健康を守るうえでとても大切です。
食後の歯みがきに加えて、食前にみがくことにもメリットがあります。
古いプラークを先に落としておくことで、むし歯の原因を減らすことができるんです。
食前に歯をみがいておくと、むし歯の原因となる汚れが取り除かれているので、安心して食事を楽しめます。
2.時間と食生活の改善
早寝早起き。
生活のリズムで最も大切なことは、早く寝て早く起きること。
夜ふかしせずに、十分な睡眠時間をとり、規則正しい生活習慣をしっかり身につけましょう。
朝食はしっかり摂りましょう。
朝ご飯は1日の元気の元です。
しっかりと栄養のあるものを食べましょう。
よくかんで食べる習慣を身につけましょう。
よくかみ砕いて食べる事により、かむ回数が増え、唾液の分泌もよくなるので消化吸収を促進します。
あまりかまずにお茶や牛乳で流し込むような事はしないようにしましょう。
栄養バランスのとれた食事を。
強い歯と身体をつくるために欠かせない、カルシウムやリンなどのミネラル成分を豊富に含んだ食べ物 (小魚類、レバー、海藻類、牛乳、卵、大豆、野菜など) をバランスよく摂取しましょう。
むし歯は、食事で口の中に入ってきた糖(砂糖など)をむし歯菌がエサにして、酸をつくり出し、その酸が歯の表面を溶かしてしまうことで起こる病気です。
この仕組みだけを見ると、「食事のたびに歯が溶けて、どんどんむし歯になってしまうのでは?」と思われるかもしれません。
でも、実際にはそうならないのは、唾液のおかげなんです。
唾液には、むし歯菌が出した酸を中和してくれる働きがあります。
さらに、溶けかけた歯の表面を修復する「再石灰化」という大切な役割も果たしています。
つまり、私たちの歯の表面では、「脱灰(歯が溶ける)」と「再石灰化(歯が元に戻る)」が毎日のように繰り返されているのです。
むし歯を防ぐためには、この“歯が溶けている時間”をなるべく短くすることがポイントになります。
具体的には
- 間食の回数を減らす
- 就寝前には必ず歯を磨く
- 糖分が多く食べている時間の長いもの (キャラメル・キャンディー・クッキー)はさける
おやつはお菓子や市販の飲み物だけに頼らず、果物など自然の食材を取り入れる工夫も大切です。
※週に何回か休甘日(きゅうかんび)を設けるなどして、お菓子の間食回数を減らすことも効果的です。
3.歯質
むし歯を予防するためには、歯そのものを丈夫にすることも大切です。
むし歯予防において、歯の表面を強化する「フッ素塗布」は非常に効果的です。
とくに、お子さまの生えたての永久歯は軟らかく、むし歯のリスクが高い状態にあります。
当院では、歯の再石灰化を促し、むし歯菌の働きを抑えるフッ素を、歯科衛生士が丁寧に塗布しています。
2ヶ月ごとの定期塗布をおすすめしており、歯ブラシが届きにくい歯のすき間や奥まで、しっかりカバーします。
ご家庭でのケアに加えて、定期的なフッ素塗布でむし歯に負けない強い歯を一緒に育てていきましょう。
フッ素とは?
フッ素(F)は、塩素やヨウ素と同じ「ハロゲン族」という仲間の元素で、非常に反応性の高い性質を持っています。
そのため、自然界ではさまざまな物質と結びつき、土・水・植物・動物、そして私たち人間の体内にもごく自然に含まれているのです。
日常の食事や飲み物の中には、少量のフッ素(フッ化物)が含まれており、私たちは知らず知らずのうちに体内に取り入れています。
このフッ素は、特に歯や骨の健康を支える役割を果たし、むし歯予防にも効果的です。
フッ化物は歯の表面に取り込まれて、歯の主成分であるアパタイトと結びつき、より丈夫でむし歯に強い歯へと導いてくれます。
フッ化物を含んだ歯(フルオロアパタイト)は普通の歯よりも丈夫になります。
むし歯菌の出す酸に対してより強くなり、 むし歯になるのを防ぎます。
また、歯のエナメル質のまわりにフッ化物があると一度脱灰した部分の再石灰化を促進し、エナメル質の補修がしやすくなります。
最近の研究では、再石灰化を助ける働きが、むし歯予防にとても大きな効果を持っていることがわかってきています。
4. 砂糖
キシリトールとは
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天然の素材の甘味料
キシリトールは自然界に存在する天然の甘味料です。多くの果実や野菜の中に含まれ、また人体でも作られます。
工業的には白樺の木やその他の樫木を原料として作られます。キシリトールは砂糖と同等の甘味度です。
ただキシリトールは砂糖のようなおいしさや食欲をそそるような甘さは少ないといわれています。 -
冷涼感のある甘味質
キシリトールは溶解時に吸熱反応が起こり、口の中でたいへん爽やかな冷涼感が得られます。
ミントフレーバーと併用した場合特に顕著にその効果が現れます。 -
血糖値に影響を与えません
キシリトールはインシュリンに関係なく代謝されるので糖尿病患者の人も安心して摂取できるという長所もあります。 -
エネルギー
キシリトールの熱量は砂糖の75%(3kcal/g)とやや低めです。 -
安全性
キシリトールはアメリカ、カナダ、EC諸国など世界38カ国以上の国々で食品、医療品用途で認可されており、FAO/WHO合同食品規格委員会より 『一日の許容摂取量 (ADI)を特定せず』という最も安全性の高いカテゴリーとして評価されています。
むし歯発生のメカニズム
むし歯は、さまざまな要因が重なって起こる病気です。
大きく分けると、体の健康状態、お口の中に残る糖分の量やその時間、そしてむし歯の原因となる細菌が関係しています。
これらの条件がそろったときに、むし歯が発生しやすくなります。
中でも、歯に直接ダメージを与える細菌としてよく知られているのが、「ストレプトコッカス・ミュータンス菌(SM菌)」です。
SM菌は、歯の表面や歯と歯の間にすみつき、糖をエサにして歯垢(プラーク)を作り出します。
このプラークは細菌のかたまりで、糖を分解して乳酸などの酸をつくり出します。
その酸が歯の表面(エナメル質)をじわじわと溶かしていき、やがて小さな穴=むし歯ができてしまうのです。
5. キシリトールのむし歯
抑制メカニズム
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口腔内細菌に対しての非発酵性
砂糖を摂取した際、口腔内のpHレベルは急速に低下し、歯のエナメル質の脱灰が生じます。
キシリトールは口腔内細菌によって全く発酵されませんので酸は生成せず、pH値も変化しません。 -
むし歯菌の成長抑制
キシリトールは歯垢とその中のむし歯菌を減少させることがユリビエスカのキシリトールガムでの研究などで実証されています。
このような効果が実証されている甘味料は原則キシリトールだけです。 -
歯質の再石灰化の促進
キシリトールは唾液の分泌を活発にし、口の中のカルシウム量を高めることで、歯が溶けるのを防ぎ、再びミネラルを取り込む再石灰化をサポートします。
これにより、むし歯のリスクを減らすことができるとされており、WHOの調査協力によるフランス領ポリネシアでの研究でも、その効果が実証されています。 -
口腔内細菌の非順応性
多くの人工甘味料(非う蝕性甘味料)は、長期間摂取し続けると、口の中の細菌が次第にその甘味料に“慣れ”、砂糖と同じように発酵して酸をつくるようになることが知られています。
しかし、キシリトールだけは例外です。なんと10年以上摂取を続けても、口腔内の細菌がキシリトールに順応することはなく、酸をつくることもありません。これは数多くの研究で明らかにされています。
そんなキシリトールには、むし歯を予防する大きな力があります。
そのため、私たちパール歯科医院でも患者様に自信を持っておすすめしています。
ただ、よくこのような質問をいただきます。
「それなら、いっそのこと世の中の砂糖を全部キシリトールに変えたらいいんじゃないですか?」
確かに理想的なお話です。しかし、現実的にはいくつかの理由で難しいのです。
①キシリトールが砂糖より高価であること。
②砂糖の持つ“自然な甘さ”にはかなわないという点
です。
特に後者の「甘さの満足感」の違いは、消費者にとって大きな要素のようです。
今ではスーパーやコンビニでも、キシリトール入りのガムやタブレットをよく見かけるようになりました。
ここで、皆さまにぜひ気をつけていただきたいことがあります。
それは、「なるべくキシリトール100%の製品を選んでいただきたい」ということです。
パッケージに大きく『キシリトール』と書かれていても、実は他の甘味料が多く使われている場合があります。
購入の際は、原材料の表示をよく確認してみてくださいね。
唾液検査
唾液検査は、お口の状態やむし歯・歯周病のなりやすさを客観的に把握できる、痛みのない簡単な検査です。結果をもとに、あなたに合った予防プラン(歯みがき指導・食生活アドバイス・フッ化物利用など)を作成します。
- 唾液の量 … 自浄作用の強さを評価。少ないとドライマウス・口臭・むし歯リスクが高まります。
- 唾液の質(緩衝能) … 口の中の酸を中和する力。弱いと歯が溶けやすくなります。
- むし歯菌の量 … ミュータンス菌/ラクトバチルス菌の多さをチェックします。
- 歯周病関連 … 歯周病菌の有無や、口腔内の清潔度の評価に役立ちます。
検査の流れ(例)
- 専用の水で一定時間うがい、またはガム様のものを噛んで唾液を採取します。
- 院内の検査機器/キットで測定(約10~20分)。
- 結果をその場でご説明し、個別の予防プランをご提案します。
検査をすることで、ご自身のリスクが「見える化」され、むし歯・歯周病を未然に防ぐための具体的な行動に繋がります。
ご希望の方は受付またはスタッフまでお声がけください。
定期検診と合わせて行うのがオススメです。